第29章 【コックローチアタック】
幸いターゲットは大分弱ってきたらしい、床に落ちたそいつに対し山口は殺虫剤を吹き付けまくりしばらくしてターゲットは沈黙した。
「ふええええ。」
縁下美沙が普段は出さない情けない涙声を上げながらぺたんと座り込む。
「やっと何とかなった。」
山口も腕で汗を拭う。
「ホンマごめん山口、おおきに。」
「俺もビビりはしたけど大丈夫、でも美沙さんもあいつは駄目なんだ。」
「あいつら衛生面で多大なる問題があるんやもん、そらおっかないわ。うろつかれたら汚染広がりまくりそう。」
「た、確かに。」
この時山口は虫の見た目とか動きとかじゃなくて衛生面なんだと思ったが美沙の消耗が気の毒すぎてそこまでは突っ込めなかったという。
とりあえず敵は沈黙したということで安堵した2人だったが
「ぬ。」
美沙はまた体を固くした。先程山口の頑張りで沈黙したはずの敵に動きがあったように見えたのだ。
気の所為(せい)やろか寧ろ気の所為であってほしいと思いつつ美沙はもう一度床に落ちてひっくり返っている敵を見つめる。
そして美沙は気づいてしまった。
「ふぎゃああああああああああああっ」
ひっくり返った敵のギザギザしたおぞましい足先と触角が動いているのを視認してしまった美沙、さっきよりも盛大に叫んで飛び上がった。
「まだ生きとおぉぉぉぉぉぉぉぉっ。」
「美沙さんっ」
山口がババッと振り返るももう遅い、狭い部室内にボーンッと薄い金属板が衝撃を食らった音が響く。周りを考えずに飛び上がった美沙は近くのロッカーに派手にぶつかっていた。
同時に上に乗っかっていたダンボールや書類などの荷物がバサバサバサッと落下する。
「危ないっ。」
山口が高速で動き、気づけば美沙は視界が90度回転していた。