第5章 【聖夜は26日】
そんな美沙が影で奮闘している間にどんどん時は過ぎた。12月26日当日である。
「寒(さむ)。」
休日だった為、義兄よりずっと遅く起きた美沙は呟く。出身は宮城県内であるが瀬戸内海方面出身の祖母から受け継いだ鼻には冷気が辛い。義兄の力は今頃もっと冷え込みがきつい体育館で仲間達と練習に励んでいることだろう。一緒に食器を洗っていた義母が大丈夫かと声をかけてきた。
「うん、ちょっとくらいやったら大丈夫。」
美沙は答えたがその瞬間に思い切りくしゃみをしたのだった。一方、義兄の力は美沙の思う通り底冷えする中男子排球部の練習に励んでいた。
練習が終わってから、力は早速仲間達に誕生日を祝われた。即刻声を上げたのは田中と西谷でやかましくはあったがありがたいことである。成田や木下、後輩達も―ボソボソとだが月島すらも―口々におめでとうと言い、これプレゼントと色々渡してくる。
「みんな、ありがとう。」
受け取りながら力は礼を言う。本当に自分は恵まれているなと感じた。もらったものを鞄に入れたりしてまとめているとふと田中がそういやおめ、と言った。
「妹からは何かあったのか。」
力はいやそれがと答える。
「特に何も。俺が出る時はあいつまだ寝てたし。」
「えー。」
日向が声を上げる。
「美沙、クリスマスより大事とか言ってたのに。」
「寝坊しただけじゃねーのか。」
「王様の発想ってホント単純だよね。」
「んだと月島。」
「まぁまぁツッキー。でも美沙さんならあり得るかも。」
「あるいはなんだかんだ言ってて忘れたとかね。」
「そ、そうかなぁ。」
遠慮がちにだが異を唱えるのは美沙の友人でもある谷地だ。
「美沙さん、ここ2日くらい何か一生懸命準備してる感じだったよ。何もないって事ないと思う。」
ここで谷地はという訳で縁下さんっ、といきなりババッと力の方を振り返るのでさしもの力も動揺する。
「だいじょぶでありますっ。」
「えと、つまり。」
「美沙さんの事なのできっとお家帰ったらサプライズです、サプライズっ。」
「ああ、うん、ありがとう谷地さん。」
力はぼんやりと、だと嬉しいけどと考えた。