第5章 【聖夜は26日】
田中は成田に食ってかかるがハタと背後に何かの気配を感じて恐る恐る振り向く。
「ゲッ。」
逃げようとするがもう遅い、そこには笑顔で主将の澤村に匹敵する圧力を醸し出す縁下力の姿があった。
一応述べておくとこの後田中は力に自慢の坊主頭をひっつかまれてしばしギチギチとやられた上に冬休みの課題は絶対手伝わないわかりそうな所だけ美沙に聞くのも禁止と申し渡され、しかも西谷にもそのとばっちりがいったという。
まさに谷地が察し木下が言った通りで縁下美沙は世間がクリスマスカラーに染まっている中そちらには目もくれず、来る12月26日の義兄の誕生日にむけて準備をしていた。大変珍しいことである。元々正月とよくて雛祭り以外頓着しなかった祖母の元で育ちおまけに友達がいなかったせいなのか、薬丸だった頃から美沙は世間の行事には関心が薄い。縁下家に入って家族が構ってくれてなかったらこいつはおそらく自分の誕生日すらも忘れていただろう。縁下力はコーチの烏養繋心に心配され他校にも突っ込まれるくらい義妹を溺愛してしまっている。しかし逆を言えばそれは美沙に義兄を思う心を強く植えつけたのだった。
「これにしよかな、それともこっちにしよかな。」
とある店で商品を手にとって美沙はひとりごちる。
「どっちも欲しい言うてたから片方でも喜んでくれると思うけど。」
うーと唸りながら悩んでいる関西弁の少女は少々目立つかもしれない。
「もうええわ、こっちにしよ。」
とうとう美沙は片方の手にあった商品に決めた。決めてからは妙に素早く、少女はとっととレジに向かったのだった。