第22章 【大人になってもご用心】
ブツブツ言いながらとうとう女性が台所から出て来た。料理を運んでからちょっと休憩と息子の隣に座る。
「流石に喉乾いたわ。お茶もらお。」
「おかん、はい。」
「ありがと。せやけどおかん言いな。」
女性が言って息子に入れてもらった茶をコクコクと飲んでいるとビール瓶片手に西谷が言った。
「美沙もたまには飲めよ。」
西谷はそのまま美沙と呼ばれた女性の茶を飲み終わったコップにビールを注ごうとした、がその手は縁下力にガシッと掴まれて止められる。
「西谷やめろっ。」
それから力はバッと妻の方を振り返って言う。
「お前も飲むなよっ、絶対に。」
「わかっとうって、いくつになっても心配性やねんから。」
「言いたくもなるっての、何せお前は」
ため息をつく力に縁下美沙ははいはいと微笑んだ。しゃあない(しょうがない)人やねぇといった風である。
「おかん」
息子がポツリと言った。
「サラミ無くなっとう。」
「あれほんまや、ちょっと足らんかったか。買(こ)うてくるわ。」
立ち上がる美沙に力が俺も行くと言い出した。
「大丈夫やて、すぐそこやし。」
「夜は物騒だから油断出来ない。」
「ちょお力さん、子供の頃に戻ってどないすんの。」
「ニュース見てない訳じゃないだろ、最近は歳も何も関係なく危ないから。」
「いやあの力さん」
埒の開かない夫婦の会話におっさん方が久しぶりに始まったとクスクス笑い出す。傍(はた)で見ていた息子は呆れたように目を細めて両親を見つめていたが耐えかねたのかこう言い放った。
「はよ行けや、恥(は)ずいねん。」
それで夫妻はうぐっとなりそそくさと買い物に出る用意を始めた。
「ほな皆さんすみません、ちょっと外します。」
「おー、縁下ジュニアはまかせとけっ。」
「変なこと教えるなよ、西谷。」
「待てこらっ。」
そして縁下力は出る直前に息子に笑いかける。
「悪い言い回しもいい加減にしないと標準語に矯正するからな。」
息子は椅子から飛び上がった。
「おっかしいなぁ。」
縁下夫妻が出かけたのを見計らってから夫妻の息子は口を開いた。おっさん方はどうしたとかつての部活仲間に生き写しな少年に注目する。