第21章 【初めてのアルバイト】完結編
「うおおおおっ。」
その約1名は暴発した。
「すげえ人生っす苦労されたんすねっ。」
「ふぎゃ、え、あの」
「自分は黄金川でっす、1年っすっ。」
「よ、よろしく。でも茂庭さんらにも言ってるけど私別に苦労してないから、親戚には置いてかれたけど縁下さんちには望んで引き取られたから。」
「苦労を苦労と思わない、ソンケーっすっ。」
「ちょお誰か助けてっ。」
「そら見ろ面倒な事になりやがった、半分ボケざまあ。」
騒ぎに乗っかって思い切りいやらしく言う二口に美沙はとうとう我慢がきかなくなった。
「ええい毎度毎度この人はっ。」
ひょろひょろの片手はスカートのポケットを探ってハンカチを掴み、二口に向ける。が、
「主将、危ないっ。」
暴発した約1名の声と共に気がつけば美沙の足は少し浮いていた。
「えーと」
美沙は困惑し、勿論伊達工の連中もほぼ全員が困惑した顔をしていた。
「何で持ち上げたのかについて。」
「あっすんません、何かついっ。」
「黄金川君は"つい"で持ち上げるのか。」
「うわっ軽い。何キロですかっ。」
「◯キロやけどそれがどないしたん。」
こらえきれなくなった美沙は言語が関西弁に戻っていて目は線の如く細くなっている。
「軽すぎっすっ、ちゃんと食ってるんすかっ。」
「やっかましーっ。」
思わず美沙はそのまま関西弁で叫び、茂庭は片手で両目を覆った状態で天を仰ぎ、滑津は口元を両手で覆って目を丸くし、笹谷は両耳を塞いで俺は何も聞いてないとひとり呟いている。
この時伊達工の連中は誰も事が起こるまで異変に気づいていなかった。
そして異変は高速で進んだ。ビュンと音がして黒い弾丸のような何かが走り抜けた。よく見たらそれは黒の詰襟制服を着た男子学生で美沙を持ち上げてしまった黄金川の前で止まり微笑んでいる。たちまちのうちに持ち上げられたままの美沙は動揺した。
「ににににに兄さんっ。」
ここまできてもふぎゃあああっと言わなかっただけ美沙にしては上等だ。
伊達工の連中は一斉に美沙の義兄である力に注目する。