第4章 【前監督と義妹】
「美沙っつってうちの縁下の妹だ。親は死んでてばあちゃんに育てられて、そのばあちゃんも死んだんで縁下んちに引き取られたらしい。」
「義理の兄妹って訳か。どおりで似た顔を見た覚えがないと思った。」
「性格がちょいちょい似てやがるけどな、真面目んとことか何気に面倒見いいとことか。」
「兄妹仲は。」
「縁下の性格がアレだ、悪かねえ。むしろ良すぎて呆れる。」
一繋はそうかと呟き自分も茶をすすってから言った。
「どんな様子だ。」
呟く彼の脳裏には身を乗り出して兄さん、と呟いていた少女の横顔が蘇っている。
「何つーかよ、」
繋心が天井を仰いで呟く。
「ちょいちょい兄妹でいるとこ見るけどべったりくっついてやがるな。特に縁下はいつもはフツーなのにあの妹絡んだ時だけ不思議ちゃんになるしよ。」
「依存、か。」
一繋はふと口にし、孫は多分それだと頷く。
「まあ仲違いしなかったとしても、なぁ。」
何を思ったのか繋心がうーんと唸った。
「何だ、 はっきりしろ。」
「うっせー。」
言い返してくる繋心の顔は心なしか青い。しばし祖父と孫は沈黙した。やがて繋心が口を開いた。
「あいつら」
孫は言った。
「一線越えそうでこええ。」
「どこにビビってやがる。」
一繋は残った茶を一気に飲み干し、湯呑みをカンッと置いた。
「人生何があるなんてわかるか、そんでお前が心配してどうなるもんでもねえ。」
「わーってるけどよ。」
「だったら無駄な心配すんな、引き受けた方の事心配しろ。」
「ちっ、うっかりじじぃに言うんじゃなかったぜ。」
繋心は舌打ちをして立ち上がり、湯呑みを下げにいく。孫が席を立ったほんの少しの間になるほどなと一繋は思った。どおりであの嬢ちゃんはあの時あんな顔してた訳だ。
もう一度あの時の少女、縁下美沙の顔を思い浮かべる。あれは単に兄貴を応援しに来た妹のものではなかった。もっと深く愛する者を見るような顔つきだった。
「確かに危ういな。」
一繋は独りごちた。
「しかし若いねえ。」
クックッと1人笑う一繋に戻ってきた繋心がじじぃ妙なもん食ったかと呟く。ふざけんなこのくそガキと一繋が言い返したため大人による大人気ない騒ぎが勃発した。