第15章 【どうしてこうなった】前編
一度青葉城西高校に1人で行った事があるのは幸いだった。かつてバレンタインに日頃のお礼として及川と岩泉に飴を渡しに行った事がなければ方向音痴な上に人見知りの美沙がそこに到着出来たか怪しい。それでもインドア派の動画投稿者が急に走るのは勿論無理があって何度か失速しては歩きに変わり少し息を整えてはまた走り出してを繰り返す。烏野に来る前は一刻も早く学校から離れたくて下校時はしょっちゅう走っていた。育ててくれた祖母がなくなって烏野に来てからはそういうことがなくなりただでさえ鍛えられてはいない体が更になまっている。
「もつやろか。」
またゼエゼエと息をして歩きながら美沙は呟いた。通行人の視線は完全無視だった。
その頃烏野一行は青葉城西に到着してお互いの挨拶を済ませて準備を始めているところだった。ここで美沙の義兄、力はやらかした事に気づくこととなる。
「あ。」
鞄からサポーターを出そうとしたら当然の如く見当たらない。
「どうした、縁下。」
菅原孝支が聞いてくる。
「やらかしました、サポーター忘れてる。」
「マジか。誰か予備持ってね。」
菅原が声をかけると成田が俺持ってますという。
「悪い、助かる。」
力が成田から予備を受け取っていると東峰旭が珍しいなぁと呟く。
「縁下が忘れ物なんて。」
「田中や西谷ならわかるけどな。」
はははと笑う澤村に田中と西谷がそりゃないっすよと抗議するも流される。
「あの縁下さん」
ここで日向がぴょこっと片手を挙げた。
「美沙に連絡しなくていいんですか。」
「何で。」
首を傾げる力に日向はだってと続ける。
「もしかしたら美沙が気づいて届けに来るかも。」
「ままコが道迷わずにこっちこれんのか。」
「影山君、そういう問題じゃないと思う。」
「美沙さんは確かに時たま大胆だけど、ねえ。」
影山飛雄、谷地、山口も口を挟んだところで力はまさかと笑って受け流す。