第15章 【どうしてこうなった】前編
「もう、兄さんまでツンデレ乙言いよるて世も末やわ。」
そんな文化を縁下家に持ち込んだのはどこの誰なのか。ブツブツ独りごちながら2階の自室に向かう美沙、その前にふと義兄の部屋の前で足を止める。意味のない行動だった、別に義兄の部屋を覗く理由などない。しかし美沙は気付けば義兄の部屋のドアを開けて中を覗き込んでいた。後で思えば無意識のそれは何かの導きだったのかもしれない。
「ちょお兄さんっ。」
美沙は飛び上がった。烏野に来てからというものすっかり見慣れた黒い物体、義兄のサポーターが机の上に乗っかっている。
「どどどどないしょう。」
慌てる美沙、まさか弁当ならまだしもあの義兄がバレー関係の忘れ物をするなんて思わない。
「えええと兄さんはサポーターなしでも行ける人やったっけ。」
流石に日頃そんなところまでは気が回っていないがとにかくこれはまずい気がする。義兄は基本控えであり練習試合にも出ない事があったりするがしかし本当に万一レギュラーの誰かが体力切れ起こしたとかコーチの烏養が何らかの考えで義兄を出す可能性もないとは言えない。忘れ物をして困っている義兄を想像しただけだ美沙はゾワッとした。
一旦はサポーターをひっつかんでそのまま家を飛び出してしばし走った。しかし義兄の力の姿はもうない。慌ててキョロキョロするもどうにもならず美沙はすぐ家にとって返しほぼ無意識で行動していた。ズドドドと自室に戻りいつも通学に使っている鞄にサポーターを突っ込んでババッと着替えた姿はいつだったか西谷から贈られた電脳少女の文字入りTシャツと学校指定体操服のハーフパンツ、肩からはいつも通り祖母の形見のガジェットケースを下げてもう一度家を飛び出していた。後ろから驚いたらしき義母が何事かと声をかける。
「兄さんが大事なもん忘れとうっ、から青葉城西行ってきますっ。渡したら戻ってくるからっ。」
あっけにとられる義母を残して美沙はそのままバタバタと走り続けた。