第21章 ・義妹が起こした奇跡
「あの、ええと、兄様そろそろ自覚してくださいな、お気持ちは嬉しいですがどう考えても過保護です。クラスで学内に兄弟姉妹がいる人もそこまでしてません。」
「そういうものか。」
「はい。」
「それと溺愛というのは。」
文緒にしてはよくぞ突っ込んだと言える。
「瀬見に言われた。無関心から溺愛する段階に入っていると。」
「瀬見さんもまた何を。」
「わからない。」
「どのみち過保護と認識されているのは変わりなさそうですね。」
「どうしたものか。」
「せめて帰りに連絡させるのはご勘弁ください。お母様には入れておきますが。」
「却下だ。」
「何て事。」
「お前が他所に興味を持たれる以上仕方があるまい。」
この人は何を言ってるんだろうと思った文緒はそのまま敬語に変換して呟いた。
「兄様、何をおっしゃっているのかわかりかねます。」
「及川あたりにウロウロされるのが一番かなわん。」
「つまり兄様としてはどんな風に都合が悪いのでしょう。」
今になってやっと文緒はそこに切り込んだ。遅いがやらないよりは良い。問う文緒に対して若利は沈黙する。文緒はわかってきた。他ではどうかわからないが少なくとも文緒の前では自分でもよくわかっていない事を聞かれる時に若利は沈黙する。
「推測であり仮の話だが」
やがて若利は重々しく言った。相変わらず膝に文緒を乗っけているせいで寡黙な父親とその娘みたいな図になっている事には気づいていない。
「お前が及川と付き合うなどと言いだしたら断固反対する。」
断固などと言いだした。及川が聞いたら大騒ぎしそうだ。(そして間違いなく岩泉へとばっちりが行くだろう。)勿論言われた文緒も動揺した。
「兄様、お気は確かですか。」
「確かだ。」
本気で言っているとしか見えない若利、とうとう文緒の中で何かが起きた。
「どこがっ。」
気がつけば文緒は声を上げ、その片手は若利に向かってペシッと平手突っ込みを入れていた。若利は怒らない、しかし明らかにキョトンとしていた。