第21章 ・義妹が起こした奇跡
「やっぱりお嬢様だってことを確信したわ。」
「そうですか。」
「それについては無自覚でも許す。」
言う瀬見の手が文緒に伸ばされる。文緒が首をかしげているとその手は文緒の頭をポンポンとやった。ふと文緒は微笑む。
「何だか瀬見さんがお兄さんみたいになってます。」
「若利にこういう芸当は当分無理だろ。」
「でもいきなり抱っこされた事件がありました。」
「天童からも聞いたけどお前何でそういうことを堂々と人前で言うかな。」
「何か問題があるのでしょうか。」
「女子の前で言ったらお前場合によっちゃ危ないぞ。」
「それは嫉妬されてるかもというのと関係が。」
「何だわかってんじゃねーか、ホッとしたわ。」
「困りましたね、私達は兄妹なのに。」
本気で困った顔をする文緒に瀬見はため息をついた。
「ああそうだな、少なくともお前はそう思ってるよな。」
「瀬見さん。」
「なんでもねーよ。」
瀬見は笑っているが文緒は何だか淋しそうな笑い方に見えると思った。
そうしてその日の夜である。
「という事がありました。」
文緒は義兄に報告していた。しかしその位置には問題がある。またも若利の膝の上だったのだ。嬉しいような困るようなである。
「そうか。」
義妹を無理矢理膝に乗せた張本人は相変わらず抑揚をあまり感じない返事をする。しかし手はきっちり義妹が落ちないように支えていた。
「今も瀬見とはよく話すようだな。」
「相変わらず心配されているようで。」
「二人きりなのか。」
「どういう訳かそうなっています。」
「そうか。」
「兄様。」
少し考えるそぶりを見せる若利に文緒は疑問形で呼びかける。若利はあまり長くは考えていなかった。
「失念していた。帰りは共に出来ずとも昼食くらいは可能だな。」
「しかし兄様にもお付き合いというものが。」
「たまになら構わん。」
「また過保護と言われないでしょうか。」
「過保護でも溺愛でもないと思うが。瀬見に世話をかけてばかりもいられんだろう。」
これはいけないと流石の文緒も思った。そして若利と並んで天然ボケとされる少女は頑張ってみた。