第20章 ・過保護野郎
叫ぶ瀬見、しかしもう遅い。若利のわずかな表情の変化に対してまとう雰囲気は明らかに機嫌が悪くなった事を示している。大平がもう天童はしばらく喋んないでねと言い出す始末だ。
「これ以上他に目をつけられてはかなわん。」
若利は言った。
「だったら妹には牛島さん知ってる相手でも名乗らないように言っとかないと。」
天童が黙ったかと思えば川西がボソリと言った。白布がいらん事を言うなとばかりに小突くが撤回しない。若利にジロリと見られながらも川西は言う。
「バレーやってる奴相手が知名度高い牛島さんの妹って聞いたら大なり小なり気にするでしょ。」
「そういうものか。」
「話聞いた限り青城組はそれっぽいので。」
「どうしたものか。」
「ガチで考えんな、お前は。」
考え込む若利に山形が突っ込み、天童が性懲りも無く口を開く。
「どうせうすーく繋がってても文緒ちゃんは若利クンと全然顔違うしさ、前の名前でも名乗らせたら。」
好き放題言う天童に大平がもういい加減にねと呟いた。しかし若利は気を悪くした風もなく言った。
「せっかくの案だが」
呟く若利はどこか遠くを見ているようでチームの連中は何だ何だと若利を見る。
「それは無理だ。」
「あれ、文緒ちゃんて元から牛島の名前だったっけ。流石遠くても親戚だね。」
「いや違う。」
尋ねる天童に若利は答えた。
「母さんが禁止している。」
「若利クンのかーちゃんが。何で。」
「事情があってな。」
「どんな。」
「おい、誰かあのとめどねえ馬鹿の周りにダム作れ。」
「せき止めろって事ですか、瀬見さん。」
「川西わかってんな。」
「ビーバーじゃあるまいし。」
「今の白布さんにしては面白いですっ。」
「工、喧嘩売ってるのか。」
「何で最近若利はネタになるんだ。」
「諦めろ獅音、あいつが妹限定でネタを投下するのが悪い、しかも無自覚。あと天童は止まらない。」
「隼人もうわかったよ、俺頭痛くなりそう。」
本当に頭を抱える大平を他所に若利は淡々と天童に答えた。
「少々良くない事を思い出すらしい。」
「そうなの。」
「ああ。」
若利は頷いてまた考え込むそぶりを見せる。