第20章 ・過保護野郎
何となく若利の察しが良くなってきた気がする。若利はそうかとまた呟いた。片手が文緒の背中にやられているは意図的なのか何も考えていないのか。
「話は戻るが」
「はい。」
「帰る時は連絡を入れろ。」
「はい。」
文緒は首を縦に振るしかなかった。
「他に何か言いたい事は。」
「兄様がチームの方に過保護と言われない事を祈りたいです。」
既に岩泉に言われてしまったのだ、身内が言わないとは思えない。しかし若利は言うに事欠いてこう言った。
「知った事ではない。」
大変な事になったかもと文緒は思った。
そういう訳で次の日の朝だ。
「おい、お前どーした。いつもより顔暗いぞ。」
五色工が文緒を見て声を上げた。
「おはよう五色君、何か変な事になっちゃった。」
「変って何だ。」
「兄様が」
「牛島さんが」
「帰る時は必ず連絡入れろって言ってきた。」
「牛島さんに入れたとこでどーすんだ。」
「わからない。何か気になるみたい。」
「そりゃ変だなっ。」
「何かちっちゃい子と間違えられてる気もする。」
「実際お前でかくないじゃん。」
「今初めて五色君をはたきたくなった。」
「出来るもんならやってみろ。あ、おい、ファイルだしてくんなっ。」
「これ柔らかいから当たっても大丈夫。」
「問題がちげーよっ。」
彼らが話している間、1-4の連中は何やってんだあいつらといった様子でそれを眺めていた。
更に放課後、男子バレー部の部室である。
「過保護野郎。」
若利の話を聞いてじとっとした目で言ったのは瀬見である。
「兄が妹を保護するのは当然だろう。」
若利は何が悪いのだと首を傾げる。
「ついこないだまで空気扱いしてた癖に。」
山形が呟き、川西がウンウンと頷く。
「何かあったんですか、牛島さん。」
白布が渋い顔をしつつ尋ねた。いきなり正気ですかと尋ねなかったのは彼なりの配慮か。尋ねられた若利はざっくりと、本当にざっくりと 話をする。
「よりによって青城の及川が噛んでるのか。」
大平が額に片手をやってため息をついた。
「興味持たれた可能性高いな。」
瀬見が呟き、だよねと天童が言う。
「文緒ちゃんすっげー、青城に目えつけられるなんてさ。」
「馬鹿っ、天童っ。」