第20章 ・過保護野郎
「急に何故。」
「こっちは始終お前の近くにいる事が出来ない。」
「ならば兄様に連絡を入れたところで意味はないような。」
何だかとんでもない事を言われている気がすると文緒は思った。
「無事かどうかがわかればいい。」
「に、兄様、前に申したかもしれませんが心配が過ぎるのでは。お母様がおっしゃるのなら話はわかるのですが。」
微力ながら抵抗する文緒にしかし若利はジロリと義妹を見た。
「お前は誰の妹だ。」
文緒はうぐと唸ってから小さく呟いた。
「若利兄様の妹です。」
「なら俺がお前を心配してもおかしくはないはずだ。」
「それはそうですが」
「正直に言う。」
被せ気味に若利は言った。
「最初はお前に関心などなかった。極端に非常識でなければ良いとしか思っていなかった。しかしチームの多くから無関心が酷すぎると指摘された。」
やっぱりそうだったんだと文緒は思う。それにしても今日の若利もまた妙に口数が多い。
「よくわからなかったがとりあえず話してみろと言われたので試みた。そうしているうちにお前が側にいるのは悪くないと思うようになった。そして今は」
若利は目を見開く義妹に目を合わせて語り続ける。
「他の誰かがお前を側に置こうとするのがどうにも気に入らない。」
「兄様。」
文緒は一瞬若利に手を伸ばしかけてしかし引っ込めようとする。しかしその手は若利に掴まれてあっと言う間に体ごと引き寄せられてしまった。
「何故ためらう。」
若利はどストレートに聞いてきた。
「俺が恐ろしいのか。」
情けないが文緒ははっきり違うと言えなかった。
「恐ろしいというか、畏怖を感じる時があります。」
「そうか。」
若利はそれだけ言った。気を悪くしたのかもしやと文緒は考える。
「愛想がいいとは自分でも思わない。」
文緒は吹き出しそうになるのを堪えるが体の震えはどう考えても若利に伝わっている。
「兄様、私はそんなつもりは。」
「わかっている。だが事実だ。持って生まれたものはすぐにどうこうは難しい。」
「もう兄様はそのままでよろしいのでは。」
どのみち天然なんだしと文緒は心の中で付け加えるが顔に出ていたらしい。
「何か他の事も考えていないか。」
「いいえ、兄様。」