第20章 ・過保護野郎
「文緒、後で話がある。」
文緒は一瞬沈黙した。やっちゃったどうしよう、な状態だ。どうせ報告するつもりはあったが何かの予感がする。
「返事はどうした。」
冷や汗をかきながら文緒ははい兄様と返事をした。義母と祖母はやはり笑いを堪えていた。
当然文緒はその後若利の部屋に呼ばれた。少し前までのように義兄から距離を置いて正座したらこちらに来いと隣に座るよう促される。言われるままに義兄の隣に正座をし直すと早速言われた。
「及川らと何があった。」
文緒は岩泉とわあわあ言い合った辺りはちょいちょい端折(はしょ)りつつ説明する。途端に若利の眉根が僅かに寄った。
「気に入らん。」
若利は呟いた。
「つまり」
おずおずと文緒が尋ねると若利は言う。
「選手としてのあの2人は認める。だがお前はともかく俺は天然ボケではない。」
そこなのかしかもまだ言うかと突っ込みたいのを通り越して文緒は笑いそうになるのを堪える。もうこうなるとしょうがない人だなと思えてきた。
「それと、どうもお前は1人でウロウロすると何かを呼び込むようだな。」
「と仰いますと。」
「先日は烏野、今回は青城、次はどこの奴に絡まれるやらわからん。」
「兄様、私は別に喧嘩などをした訳では。」
「だが大抵いらぬ事になっているだろう。」
「いらぬ事。」
「俺は他校にお前の事を広めたい訳ではない。まして烏野でヒナタショウヨウ、青城で及川とは。」
「兄様、まさか日向の事を根に持ってるのですか。」
「得体の知れない奴がお前と接触したのが気に入らない。」
無茶苦茶言ってると文緒はぼんやり思った。
「兄様の中では及川さんも得体の知れない方(ほう)に分類されるのですか。」
「奴は女子受けが良いらしい。今まで深く気にしていなかったがお前が絡むとなると話は別だ。」
「そうでしょうか。」
首を傾げる文緒に何と若利は渋い顔をした。頭に漫画的なモヤモヤが浮かんでいそうな表情、得難い光景とはこの事だろう。
「文緒。」
「はい兄様。」
「明日から帰る時は一報入れろ。」
文緒は疑問形ではいと聞き返す。