第18章 ・若利は考える
「SNSを利用しているとは知らなかった。」
「趣味で自作小説書く人の集まるとこがありまして、皆さんなかなか面白い作品を載せておられるんです。」
「内田百閒も読むあたり字を読むのが好きなのか。」
「比較的。」
「しかしお前はスマホ持ちではないだろう。」
「今の所四六時中誰かの一言を確認するような必要はないのでそこは大丈夫です。大抵は帰ってこれから繋いで作品を拝見するだけで足りています。」
言って文緒はスカートのポケットからあの携帯型の映像機器を取り出した。そんなに凝った使い方はしていないような事を言っているが実際のところかなり使い込んでいるのではと若利は思う。
「そうか。」
若利は言って文緒と見ていた月刊バリボーを閉じて傍に押しやった。転がしたなりにしていたバレーボールに目をやっている文緒を見て若利は何となく気に入らないと思う。こっちを向けと思い文緒の顔に両手をやって強引に振り向かせた。
「兄様っ。」
声を上げる文緒がなぜ顔を赤くしているのかがわからない。
「もっと話せ。お前を知るには全く足りない。」
「兄様。」
「俺はまだお前がわからない。大人しいが弱くはない、従順だが自分がない訳ではない、友人はいないが瀬見や五色とは親しい、天然気味だがどうしようもなく愚昧でもない。趣味には年の割に幼いものとそうではないものがある。」
「兄様、私は天然ではありま」
「まだ言うのか。」
「こ、ここは譲りませんから。」
「そうか、思うより強情でもあるようだな。」
また文緒について新しい事を覚えた。
「お嫌ですか。」
文緒が躊躇いがちに問う。またこいつは何を言っているのだと若利は思った。誰もそんな話などしていない。不安そうな文緒をそのままにしてはおけないと若利は思った。しかしどうしたものか。そうしてほんの少し考えてから若利は行動したがそれはまた文緒を動揺させる結果になった。