第18章 ・若利は考える
文緒は何も考えていないと思っていたが実のところ若利は考えていた。膝の上に乗っている義妹の軽い事、牛島家に来た時から細かったし普段もたくさん食べているわけではないがそれにしてもどうしたことか。自分よりずっと小さくてしかも鍛えている訳でもないこの体はどうやって保たれているのだろう。学校でも男女問わず自分よりずっと小柄な者はたくさん見てきているのにいざこうして義妹を目の前にすると柄にもなく人体の不思議を感じてしまう。見ているだけと間近に触れるのとではこうも感じ方が違うものか。
そんな小さな体の持ち主が自分を兄様と呼び慕って側にいたがり、しかし一方で若利に意見したりなどするのだから更に不思議である。いや、ここで若利は思った。一番不思議なのは自分自身だ。何故自分は今こうして義妹を側においているのか。何故この所義妹を1人でウロウロさせたくないとか何とか考えてしまうのか。
じれったい。はたから見ていると大変じれったい事である。
「兄様、どうされました。」
「いや何も。」
若利は短く答える。わざわざ文緒にいう事ではないと考えた。
「お前は」
「はい。」
「今まで骨が折れるなどはなかったのか。」
瀬見あたりが聞いたら何聞いちゃってんだお前と突っ込みそうである。
「幸いにしてありません。」
また文緒もそのまま答えるときているから困ったものだ。
「そうか。」
「出来ればこれからもない事を願ってます。」
「そうか。」
「兄様は日頃から注意されてるのでしょうけど。」
「無論だ。」
「ときに兄様、私を乗せっぱなしでは重くありませんか。」
「問題ない。」
若利は呟いて、むしろと思わず付け加えた。
「軽すぎはしないか。」
文緒はキョトンとした。
「どうでしょう、鍛えていない事も考えると普通かと思いますが。」
「身長と体重は。」
女子に体重聞く奴があるかと突っ込む奴もいなければ、聞かれて怒る奴もいないのは不幸かもしれない。文緒はさらりと質問に答え、若利はそれを不思議に思わない。
「軽すぎる。」
若利は言った。
「言われた事はないのか。」
「そう言えばSNSだけでやりとりしている方にそんな事を言われました。」
新しい情報が入った。どうやらこの義妹はスマホも持たずリアルに友人もいない癖にSNSでのやり取りはあるらしい。