第18章 ・若利は考える
「に、兄様っ。」
「どうかしたのか。」
「どうもこうもこれは」
文緒が言うのも無理はない、若利は文緒をいきなり抱きしめたのだから。
「天童から聞いた。」
「一体何をっ。」
「文緒を喜ばせるならたまにこうしてやるといいと。」
「よりによって天童さんの入れ知恵をそのまま実行されるなんて、だから兄様は天然なんです。」
文緒は真っ赤になった顔を背ける。
「気に入らないのか。」
流石の若利も気になり尋ねてみると文緒はいいえと首を横に振った。
「嬉しいです、兄様。」
小さく言う文緒に若利は何かを感じた。それが何かはわからなかったが言うなればバレーで初めて試した事がうまくいった時に似ていると思った。
「そうか、」
文緒の返事を聞いた若利は呟く。
「ならいい。」
「ありがとうございます。」
そっと頭を若利に預ける文緒、その姿を見て意識しないうちに若利はこう言っていた。
「もう少しこうしていていいか。」
「はい。兄様のお気が済むまで。」
文緒は微笑んだ。そうかと若利は思う。一つわかった。俺は少なくともこいつには笑っていて欲しいと思っている。ふといつだったかチームのリベロである山形に言われた事が脳裏に蘇った。
"愛だな"
あの時若利は何の話だと思っていた。しかしもしかしたらこれがそうなのか。
「よくわからない。」
文緒にも聞こえないレベルで若利は呟く。いつかわかるのだろうか。気づけば文緒が幸せそうに目をつぶっている。15歳より幼く見えるその顔を見て若利はやはりこいつを1人でウロウロさせない方法はないものかと考えた。