第17章 ・月刊バリボー
「返事はどうした。」
「申し訳ありません、兄様。」
「そっちではない。」
「やってみます。」
「それでいい。」
若利は顔色を変えずしかし満足げに言う。
「あの、兄様。」
文緒はつい尋ねた。
「今兄様にとって私がお側にいるのはどうなのですか。」
「嫌ではないからいろと言っている。」
「それはわかるのですが。」
「何故だろうな。」
若利は月刊バリボーのページに目を落としてポツリと言った。
「よくわからない。だが最近は何となくそうしてほしいと思う。」
「兄様。」
「曖昧にしか言えんのが腹立たしい。こういうのは初めてだ、お前がうちに来てから。」
文緒は胸の奥がズクリとした。若利の言葉が深く太く突き刺さる心持ちがする。多分、文緒は思った。自分はきっとこの人から引き離されたらどうしようもなくなってしまう。急に切ない気持ちになり文緒はうっかり奇行に走りかけた。図々しくも若利にしがみつきそうになったのだ。しかし気づいて慌てたのが良くなかった。
「あっ。」
まさにあっという間にバランスを崩し、ドサッと音を立てて文緒は若利の膝の上に倒れこんでしまった。しばしの沈黙が流れる。
「も、申し訳ありません、兄様。」
あたふたと体勢を立て直そうとする文緒、その体を何と若利がやや強引にだが抱き起こす。ただでさえ慌てていた文緒の頭は事態についていけなくなった。というのも若利は文緒を起こしただけでなく膝の上に座らせたのである。
「あの兄様。」
この人は一体何をしているのだろうかと文緒は思う。相手はただでさえ巨漢、これでは自分がまるで幼い子供である。それでもうっかり嬉しく思う自分に何て現金なことだと思った。
「お前も見るか。」
若利が言い文緒の目の前に月刊バリボーのページが現れる。どうやら自分も読みたいと思われたらしい。興味はあったので文緒ははい、と小さく返事をした。
「しかしお邪魔になりませんか。」
「お前が決める事ではない。」
「ありがとうございます。」
この際である、文緒は異常事態に甘える事にした。義兄は何も考えていないだろうけどいいやと思う事にする。