第11章 ・おかしな届け物
しばらくしての事である。バレー部の練習は止まらない。文緒は流石に落ち着かなくなってきた。なかなか隙が出来ないどうしようと思ってふと立ち上がる。携帯電話を届けることばかりに気が行っていたのが良くなかった。こそっと出入り口を覗き込んだ瞬間である。ダンッという勢いのある音、そして誰かが危ないっと叫ぶ声が聞こえたかと思えば青と黄色のバレーボールが文緒に向かってすっ飛んできていた。ただでさえ気がそれていたのだ、反応できるはずもない。しかし瞬間的に誰かが割って入ってそれをバシィッと受け止める。その華麗な姿に文緒は思わず息を呑んだ。動体視力にはあまり自信がなくともそれが誰なのかはわかる。
「兄様っ。」
文緒の声に気づいたのか若利が足を止めて振り向いた。
「文緒か。」
ジロリと睨まれた気がしたが義兄としてはそのつもりがないかもしれない。
「家にも帰らずここで何をしている。」
「その」
威圧感に震えながら文緒は何とか言った。
「山形さんの忘れ物をお届けにきました。」
恐る恐る片手にある山形の携帯電話を差し出す文緒に対し一瞬若利は沈黙する。文緒は練習の邪魔になる云々と厳しく言われることを覚悟した。
「そうか。」
しかし若利はそれだけ言って文緒の手から携帯電話を取り上げた。
「山形に渡しておく。」
「お願いします。」
「用件はそれだけか。」
「はい、兄様。」
「なら帰れ。」
「はい。」
やっぱり怒っているのだろうかと文緒は思いながら俯く。
「母さん達が心配する。」
ハッとして文緒は義兄を見上げるが当の義兄は特に表情に変わりがない。
「お前に何かあればただではすまんだろうからな。」
「兄様。」
「早く行け。」
「はい、失礼します。」
文緒は微笑んで頭を下げ、走り去った。