第9章 ・新しい習慣
文緒は知らなかったが次の日、男子バレーボール部の朝練前に五色工はエースから妙な質問を受ける羽目になった。
「五色、」
「はい。」
「うちの文緒は弱いのか。」
「は。」
五色の頭には大量の疑問符が浮かんでいた。話が聞こえていた他の連中は何だ何だいきなり工に何質問しちゃってるんだととコソコソ見守っている。
「あいつが、弱い。」
五色は語尾を疑問形にして聞き返し、しかしすぐに首を横に振った。
「あり得ません。確かにあいつ見た目は弱っちいけど弱くなんかないです。」
黙って見つめる若利に五色は更に言った。
「弱い奴が、その、人の悪口言いたくないって突っぱねたり出来ないと思いますっ。」
「詳しく話してくれ。」
「クラスの女子が何か誰かの事ゴチャゴチャ言ってて、あいつにも話振ったんです。そしたらあいつ、直接知らないしわかんないのに悪口は言いたくないって突っぱねたんです。」
若利の目が見開かれた。
「だからあいつお堅くてノリ悪いってなってて女子からは避けられてます。」
「そうか。」
若利は目を伏せた。
「助かった、礼を言う。」
「いえっ。」
「そもそも何でそんな話になってんだ。」
黙っていた瀬見が口を挟む。
「本人が自分で言っていた。自分は弱いと、だから人の目が気になると。」
「へぇ、そういう事もお前に言えるようになったのか。進歩だな。」
「だが」
若利は呟いた。
「俺にはそうとは思えない。」
「おう、ならそう言ってやれ。」
瀬見がどこかムスッとしながら言う。
「言えば聞くのか。」
「多分あいつはお前と比べて自分はとか何とかややこしい事考えてるからな。」
「何故だ。」
「お前なぁ、ただでさえ親死んでよそんちに引き取られるってだけで引け目感じるだろうによりにもよって引き取られた先がお前んちだぞ。そら緊張するし兄貴は名がしれてるし家の名に泥塗ったらどうしようかとかも考えるだろ。言わせんな恥ずかしい。」
「そういうものなのか。」
「多分だけど。」
言う瀬見は何か複雑な顔をしているが若利には読み取れない。察した天童がワクワクテカテカした顔でそんな2人を見ているが大平にやめなさいよという目線で見られていた。