第9章 ・新しい習慣
「五色はお前と親しいのか。」
「私はそう思っています。五色君がどう思っているのかはわかりません。」
「何故そこでわざわざ分ける。」
「人の心はわからないものです、兄様。私は出来る限り本当の事を申しますし人の事を信じますが他の方がそうとは限りません。」
文緒は考えている事を正直に言うが若利は考えこむ素振りを見せる。
「俺の事はどう思うのだ。」
「兄様はてん、いえ、そのままの方だと思っています。」
うっかり天然と言いかけた。自分だって人の事は言えないのだがその自覚は文緒にない。
「そうか。」
「はい。」
「五色とは何を話している。」
「前々からバレーボールの事を教えてくれてます、用語とかルールとか。以前自分が入ったことのある試合の話になって脱線することもしょっちゅうですが。」
文緒はここで五色がテンション高く脱線しまくった事を思い出してクスクス笑う。
「五色はそのままの奴だ。お前が気にする事はない。」
若利が呟く。
「そうですか。」
「お前は随分と他人の目を気にするようだが。」
「私は自分に自信がありません。だからだと思います。」
「何故自信を持たない。」
「こちらに来る前から何か変わっているとか人と比べて劣っているとかそういう事を外から言われ続けていました。それに私は弱いです、何かあればすぐ折れますし逃げますし迎合します。学校でも自分から動けていません、五色君や兄様のお仲間がいなかったら他の人とろくすっぽ話せていなかったでしょう、実際クラスでも他でも女子の人とは全然関わりが持ててません。」
やはり思っている事をそのまま言う文緒だが若利はあからさまに首を傾げた。なかなか得がたい光景かもしれない。
「お前は、弱いのか。」
「はい。」
文緒が返事をすると若利は黙りこくって更に考えこむような様子も見せる。去っていいのか悪いのかよくわからなかったので文緒はしばし待った。
「もう行っていい。」
しばらく考え込んでいたらしい若利がやっとのことで言った。
「はい。失礼します。」
文緒は頭を下げてそっと立ち上がる。部屋を出る時、どうにも若利の視線が刺さる気がした。