第9章 ・新しい習慣
当然、その日の夜も文緒は若利に呼ばれた。
「お前はそのままでいるといい。」
「え。」
いきなり義兄に言われて文緒は戸惑った。
「何やら必要以上に考えているようだが、特に問題はない。」
「あの兄様、」
「何だ。」
「申し訳ありませんが、話が見えております。」
「お前は弱くないという話だ。」
「あ。」
昨日自分が話した事を覚えていたのかと文緒は内心ドキリとする。
「安心するといい。」
「兄様、」
文緒は不覚にも目が潤んでくるのを感じる。
「ありがとうございます。」
「何故泣く。」
「嬉し涙です。」
「そうか。」
正座したまま文緒とはまだ距離を置いたまま若利は呟く。
「それにしても」
「はい。」
「何かと瀬見からお前の話を聞くのはどういう訳だ。」
「お話する機会が多いのは確かですが、どうなんでしょう。ああそういえば兄様、今日は昼休みに川西さんとお話しまして。」
「そうか。」
「苦労多そうだなとか何とかやはり心配されてしまいました。」
「何故そうなるのだ。」
「さて。でも川西さんによると兄様が私の事を皆さんに話す事が多くなったとのことで、そうなんですか兄様。」
「むしろ聞かれることが多い。特に天童がやたら聞きたがる。」
「天童さんは好奇心旺盛でいらっしゃいますね。」
「奴はいつもだ。」
「何となくわかる気がします。」
「TVの話もされるがまったくわからん。」
「TV見ませんものね。」
「お前は。」
「私もあまり興味がないのでご飯の時にTVついてなくても気になりません。家にいる時はニュースはこれで見れますし。」
「それは何だ。」
「携帯型の映像機器です。これは高機能でタブレットの小型版みたいな節があります。」
「持っているとは知らなかった。」
「たまたまお話する機会がなくて、他意はありません。父がくれたものです。」
「そうか。」
こうして兄妹は毎日話す習慣を続けていく。ちょいちょい揃って鈍い辺りが彼ららしいと言えるかもしれない。
次章に続く