第9章 ・新しい習慣
仲間達がやいのやいの言ったことで牛島若利はやっとその義妹に関心を向け始めた。兄妹揃ってどうにも人と関わることについては不器用なのかまだまだぎこちないけれどよい傾向である。そういう訳で若利が文緒と会話をしようと試みた事はそのまま兄妹の習慣になりつつあった。
夕食の時、母も祖母も同席している中である。
「文緒。」
「はい、兄様。」
「食事と用事が終わったら俺の部屋によれ。」
「はい、片付けが終わったら参ります。」
そんな義兄妹の会話に母と祖母がお互いに目配せをしていることを兄妹は気づいていない。
「ああ。」
若利が頷くと母と祖母は微笑み合っていた。
食事が終わって食器の片付けを手伝い終えた文緒は言われたとおり若利の部屋を訪れた。
「兄様、文緒です。」
「入るといい。」
「失礼します。」
上司と部下かという突込みをしたくなるやり取りだが文緒にしろ若利にしろ当人らは何も考えていない。天童の言うように極薄くではあるが繋がっているだけの事はあるかもしれない。ともあれ文緒はそっと扉を開け、義兄の部屋に足を踏み入れた。いつもどおり綺麗に整理整頓されている中で正座している若利、威圧感が半端ではない。そんな中、文緒はそろりと近づきしかし少し距離を置いて若利の前に正座した。
「少しは慣れたのか。」
若利は開口一番そう言った。まさかそんな一言を聞けるとは思わなかった文緒は内心驚き、次に家についてか学校についてか一瞬考える。
「学校も家も少し慣れてきました。」
とりあえず文緒は両方について答えてみた。若利が特に指摘しないのでそのまま詳細を口にする。
「学校の方はクラスで五色君が親切にしてくれますし、有難いことに兄様のチームの方が気にかけてくれます。家はお母様もお祖母様もお優しいし、兄様がこうして話そうとしてくださるので少し気が楽になってきました。」
「そうか。」
若利はそれだけ言うが目線が少し逸れている。