第53章 ・思い、請い、誓い、そして
「に、兄様っ。」
驚いた文緒が声を上げた。何を思ったのか自分でもわからないまま若利は義妹をガバリと抱きしめていた。
「俺から離れるな。」
思わずそう口をついて出た。
「俺はお前の側から離れるつもりは毛頭ない。だがお前が俺から離れる事も許さない。」
「意外と心配性ですね。」
腕の中の義妹はふふと笑った。
「前にも申しました。むしろずっと兄様のお側にいさせてください。」
「ああ、そうしてくれ。」
人がいないタイミングだったのは幸いだったといえよう。
「とは言うものの、」
ノシノシポテポテと2人して石の列を抜けてから文緒は呟いた。
「彼岸の両親は許してくれるとしてそもそも牛島のお母様とお祖母様が何と仰るやら。」
「それなのだが」
若利が言う。しかしさらりと繰り出された次の台詞はとんでもないものだった。
「母さん達としてはむしろ願ったり叶ったりだそうだ。」
「え。」
文緒は固まった。固まるなという方が無理な相談である。思考が真っ白になり何も考えられないまま文緒は固まった後に沈黙した。そのまま待つことしばし。
「ええと兄様、詳しくお願いします。」
とりあえず文緒はそれだけ言えた。訳がわからなさすぎて話を聞くしか仕方がない。当の若利は何も考えていないらしく今だって頭の上に疑問符が浮かんでいるような雰囲気を醸し出していた。
「先日お前がいない時に聞いてみた。」
「一体何を。」
「仮定の話として俺が文緒を他所へやりたくないと言ったらどうなのかを。」
「何て事っ。」
文緒は飛び上がった。このどストレートのど天然は一体何を考えているのか。まだ仮定の話としてという前置きがついているだけ若利にしては上等だがこれはひどい。