第52章 ・TVゲーム その後
「今日は」
ふと若利は呟いた。
「あまり触れる事が出来なかった。」
人前で膝に乗っけてたのにと文緒が内心思っている事を若利は知らない。
「もうしばらくこうさせてくれ。」
「兄様。」
義妹が自分の胸に顔をうずめてぎゅうとしがみつき、小さく何事か呟いた。
「そうでなくては困る。」
若利は応えた。
「俺が何の為にお前に心を砕いているのかわからない。」
文緒が顔を上げて微笑む。更に身を乗り出して若利に顔を近づける。
そのまま小さな唇が若利の頬に寄せられる。たまらなくなった若利は義妹を抱きしめ直し、勢い余って文緒は若利の体の下敷き状態になる。
「どうやら俺はお前を大胆にしてしまったようだ。」
「お嫌ですか。」
「そうではない。」
若利は微笑んだ。
「それでいい。」
そして兄妹はそのまま眠る。夜は静かに更けていく。
「若利君、文緒ちゃん大丈夫だった。」
休み明けの朝練前、天童が若利に尋ねた。
「ああ。皆に挨拶もできず悪かったと言っていた。」
「律儀だねー、流石若利君の嫁。気にしないでって言っといてよ。」
「お、俺もよっかかられたの気にしてませんからっ。」
「顔真っ赤だぞ、工。」
「ああ。それより」
「まだ嫁じゃないはもういいからな。」
「何故わかった、瀬見。」
「逆にわからないと思う理由は何なんだよ。」
「いやーでも面白かったねえ。」
「文緒さんが意外だったな。」
「苦労していることはよくわかりましたよ。」
「賢二郎、何か心境の変化でもあったの。」
「事実を言っただけだ。そういう太一は一言多すぎだったよな。」
「いやあれコメントするなってのは無理デショ。」
「突っ込み所が多すぎたわな。」
「山形、どの辺りの事だ。」
「おいこいつどうしたらいい。」
「どうも出来やしませんよ。」
阿呆らしいといった様子でふぅと息を吐く白布の側では牛島さんっと五色が声を上げている。