第52章 ・TVゲーム その後
「異議は認めない。」
しばらく文緒と唇を重ねてから若利は言った。
「今夜はここにいろ。」
抱きしめられ先にそう言われては逃げようがなかった。
良いのか悪いのかその夜、寝巻きの義兄妹は大胆にも保護者在宅の中でそのまま同じ寝床の中にいた。若利が風呂から上がって自室へ行こうとした義妹をとっ捕まえ、また部屋に入れてしまったのである。
「眠ってしまったのは迂闊でしたが今日は楽しかったです。」
若利の腕の中で文緒が言う。
「そうか。」
「ああいう風に人と賑やかに遊ぶのは初めてでした。」
「そうか。」
「兄様はどうでしたか。」
尋ねられ若利は一瞬目を伏せる。
「たまには悪くないと思った。」
「良かったです。」
「それと」
「はい。」
「人は見かけによらないものだという事を実感した。」
「そうですか。」
「お前の事だが。」
「あら、心外です。こんな初心者レベルに。」
「小連鎖で相手を先に潰しにかかったりギリギリの所でブロックを回す技をする奴を初心者とは言わない。」
「まさか兄様ともあろう方が一度埋めた事をまだ怒ってらっしゃるのですか。」
「怒ってない。」
「お顔が大変不服そうですが。」
実際の所、はたからは変わっているように見えない表情で若利は呟いた。
「次は完膚なきまで倒す。」
「やっぱり怒ってる。」
「怒ってない。」
「らちがあきませんね。」
「隠していたのが気に入らないだけだ。」
「流石に言うほどの事でもないでしょうに。」
「そういう訳だから仕置きだ。今夜はこのままここにいろ。」
「兄様、それ今思いついたのでは。」
「わからない。」
「ごまかさないでくださいな。」
ぷうと縞栗鼠のように頬を膨らませる文緒の頭を若利はそっと撫ぜる。文緒は不本意かもしれないが愛らしい姿だと思った。