第52章 ・TVゲーム その後
文緒はふと目を覚ました。
「あ、あれ。」
思わず辺りをキョロキョロした。妙だ、何故自分は今義兄の部屋のベッドにいるのか。
「起きたか。」
混乱していると若利に声をかけられる。
「兄様、あの、これは」
「途中で眠っていた。丁度良い頃合いだったから皆も引き上げて行った。」
「ああ、何て事。片付けにも参加せずご挨拶もせずに申し訳ない事をしてしまいました。」
文緒は両手で顔を覆いしょぼんとするが若利は気にする必要はないという。
「お前にはああいう経験はそうないだろう。疲れてしまうのは無理もない。皆理解している。」
「だと良いのですが。」
「俺がそう言っている。」
「はい、兄様。」
微笑んで返事をする文緒だがふと疑問に思った。
「ですが兄様、どうして私は兄様の寝床にいるのでしょう。」
若利が運んでくれたのは間違いないが運ばれるなら自室なのが本来の筋だろう。いくら文緒でもそれくらいはわかる。
「眠っているのを放ってはおけん。」
「いえ兄様、そうではなく」
「何だ。」
「何故私の部屋ではなく兄様の部屋なのでしょう。」
「何となくだ。」
「思うのですが」
「何だ。」
「兄様は時折野生動物みたいです。」
「その心は何だ。」
「本能の赴くままといった所でしょうか。」
「そうか。」
若利は言って何のためらいもなく文緒の隣に潜り込む。当然文緒は慌てた。今日は普通に義母達がいる。こんな所を見つかったらどうするつもりなのか。
「兄様、私は部屋に戻ります。」
「何故だ。」
「もう起きましたしお母様達がご覧になったら何と仰るか。」
言う文緒に若利は生憎だがという前置きをしてからさらりととんでもない事を言った。
「ここに連れてくる所を既に母さんが見ている。」
文緒は危うく叫びそうになった。
「なななな何て事っ。」
「咎められなかった。寧ろ喜んでいる風だった。」
「何で喜ばれるのか、というよりそれでもこれは。」
「一度寝床を共にしているというのに何を動揺する事がある。」
「にいさ」
文緒は兄様そういう問題ではありませんと言おうとしたのに言わせてもらえなかった。開こうとした唇は若利の唇で塞がれている。