第45章 ・義妹の反抗 その3
「他に人気のある場所と言えばどこだ。」
「兄様、そもそもからお考えくださいな。私が困っているのは留め置かれる事です。」
「だが」
若利が言いかけた所でとうとう母がなかなか上がってこないがどうしたのかとやってくる。兄妹の会話は一旦そこで止まった。
そうして夕食の時、兄妹は一言も会話をしなかった。慣れてきてからは少ないながらもお互い言葉を発していたので母と祖母はおやおやといった様子で2人を見ている。しかしそれに構わず2人共食事を済ませ、若利は部屋へと上がり文緒は母と一緒に後片付けにかかった。
後片付けを終え、自室に入ろうとした文緒は若利に呼ばれた。正直気が進まなかったので逡巡しているとやはり強制的に義兄の部屋に連れて行かれる。そのまま膝に乗っけられそうになったのでこれも抵抗してみたが無駄だった。
「何故逃れようとする。」
「このまま兄様に流されそうな予感がしますので。」
「よくわからない。」
「いずれにせよ本当に留め置くのはご勘弁ください。ご心配なさらずとも私は若利兄様のものです。」
文緒は呟いて今も首にかけていたペンダントのボールチェーンをそっと握る。
「それはわかっている。」
若利は低く呟いた。
「このところ気になるのはお前が1人の時に何かが起きている事だ。1人で烏野に行って向こうの奴らと関わる、1人で男の集団に物申しに行く、挙句の果てに1人で出かけて遅くなり連絡が取れなくなる。こうも続いては気にするなというのは無理がある。」
「兄様。」
「最近思う。お前がいなくなったらどうなるのかと。」
言葉少なに語られるそれは文緒に突き刺さる。
「あくまで仮定だが、お前がいなくなったら俺は狂うかもしれない。」
それでも、それでもと文緒は思う。
「そこまで思っていただいているのは嬉しいです、兄様。でも」
躊躇いがちに文緒は返した。
「それでは大人になって働くようになったらどうなるんでしょう。」
「今はまだそうではない。」
「あるいは夜に遊び歩いている訳ではないのに。」
「そんな事は知っている。」
「では私はどうすれば良いのでしょう。」