第6章 ・大平獅音は心配する
「例えば側にいるんなら若利に嫌な思いさせたくないけど何が若利にとって嫌なのかわかんなかったら対策しようがないって話。」
「なるほど。」
「ただね、」
嫌な予感しかしていなかった大平は釘を刺した。
「ちゃんと本人にも聞くようにね。」
若利はピクリとした。表情はほとんど変わらないが大平には何となく伝わる。
「こっちは聞いた話からの憶測に過ぎないから。まあ見た所あの子はお前の事嫌いじゃないみたいだし、自分から言ってやりなさいよ。」
「そうか。」
若利は呟いた。
「やってみよう。」
一応若利にはやる気がある事に大平は内心で安堵し、監督の鷲匠にどやされるギリギリで話を切り上げた。
部活が終わってからの事である。
「確かにあれはひどいな。」
若利がいない時に大平はため息をついた。
「何が。」
山形が尋ねる。
「若利、妹への関心が薄すぎる。何で俺が文緒さんを気にして若利に言ってやらなきゃいけないんだ。」
呟く大平に瀬見がそれなと話に乗っかる。
「誰が兄貴なんだかわかりゃしねぇ。」
「今の状態だと英太君か獅音がおにーちゃんでも違和感ないよネ。」
「天童の戯言は置いといて。」
「英太君きつっ。」
「とりあえず牛島さんには頑張って兄貴の自覚を持ってもらいましょう。」
口を挟んだ白布に五色がびっくりした顔を向ける。
「何だよ、工。」
「白布さんがそんなこと言うなんて意外です。」
「どういう意味だ。」
「白布さんはあの妹が嫌いなんだと思ってました。」
悪気なく好き放題言う五色に白布はあのなぁと顔をしかめる。
「特に好きでもないけど嫌いってんじゃない。ただ、正直バレーの事は抜きにして牛島さんとあの妹の様子は見てる方がじれったい、とっとと片付いてほしい。」
「つか妹の方がとっとと爆発しちまえばいいのに。」
川西がボソリと言う。