第41章 ・迷子札あるいは首輪
「ちょっ、おまっ。」
瀬見は驚愕で腰を抜かしそうになった。文緒が引っ張り出したボールチェーンの先には小さな板状のペンダントトップがついていたのだ。よくドッグタグとかIDタグとか言われてるような物に似た形状で勿論何やら文字が彫ってある。
「何だよそれっ。」
「兄様からもらったと言うべきかつけられたと言うべきか。」
文緒は顔を赤くし困ったように俯く。
「あの野郎、どんだけだよ。」
「私も先日天童さんがドッグタグがどうのと余計な事を仰った件で物申した所でしたから正直驚きました。まさか兄様が無視してそのまま敢行するとは。」
「若利は何つってそれお前にくれた訳。」
「牛島の家に来て結構経つから記念といつも頑張ってるからと。」
「お、おう。」
「心遣いは嬉しいのですがちょっと戸惑いました。」
「ちょっとかよ。」
「でも強引にかけられてしまってもう外し辛い状況になってます。」
「無駄にやるじゃん若利の奴。どこで覚えてきたんだか。」
「何も考えていない気がします。」
「だな。」
やれやれと瀬見はため息をつく。
「つかあいつお前が好き過ぎて頭おかしくなったのか。」
「それは何とも。私が何かした訳でもありませんし。」
「わかってるわかってる、お前も若利に似て基本そんままだもんな。」
「私は兄様の所の直系ではありません。傍系も傍系です。」
「うるせえよ、ど天然がそっくりじゃん。あ、それは兄様ですはなしな。」
「先回りっ。」
飛び上がらんばかりの文緒は見ていて面白い。
「おい、弁当落とすぞ。」
「何て事。」
「しっかしなぁ」
そろりと文緒の首から下がるボールチェーンに触れながら瀬見は呟いた。
「お前、これずっとつけんの。」
「そう望まれているようなので。」
文緒が答える前で瀬見はため息をついたのだった。