第41章 ・迷子札あるいは首輪
「お前頭おかしくなったのか。」
瀬見が呟いた。
「何故だ。」
対する若利は本気で首を傾げる。
「何故もヘチマもあるか、この野郎。何で文緒の首に迷子札がぶら下がってんだよ。」
「迷子札じゃない。」
「似たようなノリじゃねーか。」
「うちに来て結構経つ。いつも懸命にしているから労(ねぎら)ってやりたいと思った。それで母さんにも相談した。」
「心意気はいいと思うぜ、お前にしちゃ大進歩だ。でもあれはどーなんだよ。ついでに了承しちゃったかーちゃんもどうなのよ。」
「あれは最近胡乱な輩と接触する事が多い、仕方あるまい。」
「真顔で何語喋ってんだお前。」
「日本語だが。」
「落ち着け瀬見っ、暴れんなっ。」
「離せ山形っ、この真面目系ど天然馬鹿何とかしねーとっ。」
「無理だろわかってんだろ若利だぞ。」
「よくわからないが納得が行かない扱いを受けている気がする。」
むうと唸る若利にアハハハと天童が面白がって笑い、川西が感心したように呟いた。
「察するなんて牛島さん、成長しましたねえ。ぼんやりとですけど。」
「感心する所じゃないだろ。」
大平がやれやれと頭を振った。
一体こいつらは何の話をしているのか。事の発端は今日になって文緒が密かにしていた首飾りである。
不幸にもなのか何なのか男子バレー部員で最初にそれを見つけたのは瀬見だった。因みに文緒と同じクラスである五色は気がつかなかったという。
「あれ、お前何かつけてんのか。」
昼休みの事である。バレー部の牛島の嫁などと呼ばれるようになった結果遅まきながらもクラスに馴染み始めた文緒であるがそれで急に友達が増える訳もない。相変わらず1人で昼食にしている事が多く、瀬見もまた何だかんだあった割にはまだまだ若利が足りていない辺りを補うように文緒の世話を焼いていた。
ともあれこの時一緒に昼食にしようとしていた瀬見は文緒の首から銀色のボールチェーンが伸びている事に気がついた。多分ペンダントの類、それは襟の後ろを経由し、ペンダントトップは着ているベストの中に隠れているようだ。
「ああ、これはその」
一方の文緒は急に落ち着かない顔になって制服のベストの中に隠れていたボールチェーンを掴んで引っ張り出す。シャランと金属質のものが擦れる音がした。