第39章 ・牛島兄妹、留守番をする 終
「お前は子供向けの映像をよく見るというがこれは悪くない。」
「本当にいいものは大人も子供も関係ないものです、兄様。私はそういうのが好きです。」
「少し、わかった気がした。」
「そうですか。」
「違う言葉の国で作られているのに話が伝わるというのは大きいことだな。」
「そうですね、兄様。」
そうして明日は母と祖母が帰ってくるという日の晩のことである。若利はこの日も文緒を自分の寝床に入れていた。というより先日一度やらかしてからずっとやっている。人が聞いたら―特に瀬見あたりが―全力で突っ込むだろうが若利としては愛しているから側に置きたいという単純な心理である。
「明日はお母様達が帰ってきますね。」
「ああ。」
「こうしてられるのは今日が最後です。」
「ああ。」
布団から顔を覗かせる義妹の姿はやはり小動物に似ていて若利はついその頭をそっと撫でる。
「兄様はちゃんと眠れてますか。」
「ああ。何故聞いた。」
「私がいる分寝床が狭くなってるので大丈夫かなと。」
「問題ない。むしろお前はどうなのだ。」
「1人の時よりぐっすりです。」
「1人だと眠れないのか。」
「慣れないうちはどうしても落ち着かなくて。今は慣れてきましたがその、」
「言ってみろ。」
「時折両親がいた時といなくなった時を思い出して泣きたくなります。」
流石の若利もそれは聞き流せなかった。ゴソゴソと自分も義妹の横に潜り込み、厚みのない義妹の体を抱き締める。あまりに小さな肩の骨を感じた。
「こうしておけばお前は泣かないのか。」
「嬉し泣きはしそうです。」
「悲しくはないか。」
「悲しくありません。兄様がいてくださると感じます。」
「そうか、ならばいい。」
満足を感じて若利は目を閉じる。
「兄様。」
逆に若利の腕の中で文緒がゴソゴソした。おそらく体を伸ばしたのだろう、耳元あたりで呟く。
「愛してます。ずっと私の若利兄様でいてください。」
若利はハッとして目を開けた。言ってから恥ずかしそうにモゾモゾと元の体勢に戻ろうとする文緒の顔をとらえる。
「ええと、兄様。」
戸惑う文緒に若利は言った。