第37章 ・牛島兄妹、留守番をする その5
「お前はもう少し人を惹きつけている可能性を考えた方がいい。」
くま模様の寝間着を着てまだ少しとろんとした目をした義妹は首を傾げた。
「そうでしょうか。」
「瀬見がそうだった。あいつはお前の内面も理解していたはずだ。」
義妹は目を伏せる。例の件がまだ心に刺さっているのだろうという事は若利でも見当がついた。
「瀬見の事は気にするな。お前は逃げずに返事をしたのだろう。」
「はい。」
ここで若利は不快な事を思い出して眉根を寄せた。
「だか及川とヒナタショウヨウには注意を怠るな。」
「兄様がそこまで根に持たれるなんて意外です。」
「根に持ってなどない。」
「説得力に欠けます、兄様。何かにつけて名前を出しては嫌な顔をされてるでしょ。」
「知らない。」
「あら、兄様が天然ではなくわざととぼけられるなんて。」
文緒はクスクス笑う。姿は愛らしいが面白くないと若利は思った。
「俺は天然ではない。」
「頑固ですね。」
「お前に言われたくはない。」
「何て事。」
言いながらもやはり文緒は笑っている。内心ムッとした若利はまだクスクス笑う寝間着姿の義妹を抱き上げた。
「わっ。」
文緒は声を上げて浮いてしまった足をパタパタさせる。
「お前は及川やヒナタショウヨウには過ぎる。」
「日向は何も考えていないと思いますが。」
「何を考えているかわからない。」
「意外と心配性ですね。」
微笑む文緒に若利は思ったままを言った。
「お前が俺から離れる事はないし俺はお前を離すつもりはない。ただお前を連れ去ろうとする奴がいるかもしれない。」
「兄様。」
「連れて行かれるのは困る。」
義妹の視線を真っ直ぐ捉えて言う若利に当の義妹は言った。
「そこまで思っていただけるなんて嬉しいです、兄様。」
「お前は俺の側にいると言った。なら俺はお前がそう出来るようにするべきだ。」
文緒はまた微笑んで両腕を若利に伸ばし、若利はそのまま義妹を抱き寄せる。ごつい野郎が姪っ子を愛でているようにも見える、かもしれない。