第37章 ・牛島兄妹、留守番をする その5
一夜明けた。目覚ましが鳴る前に若利は自然と目が覚める。ふと横を見ればすうすうと寝息を立てる義妹の文緒、結局2人はあれから一緒に眠ってしまったのだ。
布団から出たが時間に余裕があったので若利は眠り続ける義妹をしばし見つめた。安らかである。更にふとかかっていた髪をそっとのけてやると同年代に比べて幼く見える顔がよく見えた。愛らしいと自然に思う。どうしてこいつは自分で気づかないのだろう。無意識にそっと義妹の頬に触れると当の本人がう、と小さく唸ってうっすらと目を開けた。
「あ、おはよう、ござい、ます、兄様。」
途切れがちな挨拶から寝ぼけているのがまるわかりだが若利は特に気にしない。
「起こしたか。」
もぞもぞと起き上がり目をこすりながら義妹はいえ、と答えた。
「どの道起きないといけませんでした。」
それで思い出したがよくよく考えたら文緒がいつも目覚ましに使っている携帯型映像機器は本人の部屋に置きっ放しである。危ない所だった。
「そうか。」
それでも言うことが思いつかない若利はそれだけ呟いてそのまま何も考えずに着替えようとしたら文緒がわわっと慌てた。
「すみません、すぐ出ます。」
文緒はワタワタと布団から出る。そこで若利はやっと気づいた。
「すまん。」
しかし次の一言は余計である。
「たまに女子である事を忘れる。」
「兄様、昨日の今日でそれはあんまりです。」
「とはいえ小さな子供に見える時がある。」
更に良くなかったようだ。文緒は珍しく若利に向かってふくれっ面をし、プイとそっぽを向く。
「どうせ私は体型も顔も幼いです。」
気に触ったらしい事はわかるが何故なのかはわからない。何を怒る事があるのだと若利は思った。別に幼く見えようが文緒という存在そのものに価値があるというのに。
「何故怒る。」
そのまま聞いてしまうのがやはり若利である。
「お前であることに変わりはないだろう。」
「顔と体型が幼いのは少々気にしておりますので。」
「俺は気にしない。」
「兄様はそうでしょうけど大抵は短所と捉えられて冷やかされます。」
「いつも思うがそういうのは捨て置けばいい。」
「兄様ほどはっきりしていればともかく普通は難しいものです。」
「そうか。ただ、」
若利はふと思って呟いた。