第34章 ・牛島兄妹、留守番をする その2
「チームのみんなが夫婦みたいって。」
ゴスッという音が響いた。1-4の連中はあの牛島文緒が机に突っ伏して頭をぶつけている珍しい様に驚く。
「何だお前、寝るのか。」
「誰か五色君何とかしてくれないかなぁ。」
文緒はモゴモゴと独りごちた。
一方若利はあまり深く考えていなかった。戸締りとか火の用心は必要だが文緒がいるし後は何とかなると思っている。チームに面白がられている事などどこ吹く風、というよりわかっていない。困ったものだ。
という訳でその日の昼休み、食堂での事である。
「どうかしたのか。」
一緒にいるバレー部の連中の多くがやはり笑いを堪えているのが気になる。例外は白布と大平で、白布は柄にもなく朝に散々笑った為かいつも通り冷静で大平は苦笑している。そういえば今日はもう一つおかしい。食堂に来ている他の生徒もこちらをチラチラ見ている気がする。
「いや、その」
天童が口を開いた。
「ちゃんと文緒ちゃんの弁当持ってきたんだと思って。」
「教室に戻ってから食うのは効率が悪いだろう。」
「全部食う気なのね。」
「作ってもらったからな。それに少なくとも野菜は食べろと言われた。」
「律儀だねえ。」
「何となくだが」
ニヤニヤする天童に若利は言った。
「残すのは気がひける。」
「どしたの、怒られる訳。」
天童が冗談めかして言うと若利はそうではないと言ってからこう付け加えた。
「きっとがっかりした顔をする。」
バレー部の連中は沈黙した。頭の上に三点リーダをつけたいくらいである。
「どうした。」
「いや、若利君がそう言うなんて何か新鮮。」
呟く天童に若利は何も考えずに思ったままこう言った。
「顰(しか)め面よりいい意味で笑ってる方が良いだろう。」
「おい、惚気(のろけ)野郎がいるぞ。」
「英太君、これリア充爆発しろって奴かな。」
「天童さんは最近どっから言葉仕入れてんですか。」
「賢二郎は細かい事気にしないの。」
「リア充ってカレカノいる人限定でしたっけ。」
「太一、問題はそこじゃないだろう。」
「やっぱり文緒は嫁ですか、牛島さんっ。」
「こらっ、工はおかしなこと聞くんじゃないっ。」
大平が声を上げるがもう遅い。無駄にでかい五色の声は食堂内の結構な範囲に届いた。