第31章 ・変化
「お前はどうなのだ。」
「私は兄様の真っ直ぐでお強い所に惹かれました、バレーの事にもそれ以外の事にも。それと実はお優しい所とかボケてる所にも。」
「俺は天然ボケではない。何度言わせる。」
「それはこちらの台詞です、兄様。」
「そこについては聞き分けが悪いようだな。」
「兄様に言われたくありません。」
「そうか。」
会話が一瞬途切れた。しかし当初の事を考えるとここまでやり取りできているのは成果である。しばしの沈黙を先に破ったのは若利だった。
「1つ言うのを忘れていた。」
「何でしょう。」
それまでの話の流れをぶった切って言う若利に文緒は首を傾げる。
「お前は愛らしいと思う。」
文緒はたちまちのうちに動揺した。自分には縁のないと思っていた言葉がまさかの若利から発せられるとは思わない。
「え、何を仰って」
「聞こえなかったのか。」
「聞こえております、でも」
「俺がそうだと言っている。それだけでは信用に足りないのか。」
「いいえ、兄様。」
文緒はまた顔を赤くしてしかし微笑んだ。
「十二分です。」
「それでいい。」
そっと頭を若利の肩の辺りに置く文緒に若利は低く呟いた。
「お前はもう少し自分について知るべきだ。」
「つまり。」
「自分の短所を認めるのもいい。だがお前はまだ自分の長所をわかっていない。いまだに自分に自信がないように思う。」
「そう、なのでしょうか。」
文緒は目を伏せた。違うとははっきり言えない義妹に若利は重ねて言う。
「否定され続けて生きる事がどういうものか俺にはわからない。ただ俺はお前を認めているからこそこうしている。」
「兄様。」
「少しずつ改善されているのも知っている。続けていくといい。」
胸が詰まってきて文緒は義兄にぎゅうとしがみついた。外から見るとごつい父親に娘が甘えているように見えるのはご愛嬌だ。
「返事はどうした。」
「はい、兄様。」
答えると若利の手が文緒の頭を撫でた。文緒は目を閉じてしばらく身を委ねていた。