第31章 ・変化
「だがお前は怒らない。」
「私はあまり気になりませんでしたので。薄いと言われた件は訳がわからないとは思いましたが。」
「瀬見がお前は変わっていると言っていた。」
「それは他でもよく言われます。」
「そうだろうな。」
「兄様ならそう仰る気がしました。」
「どういう意味だ。」
「だっていつもそう思ってらっしゃるでしょう。」
「事実だ。」
「兄様らしいです。」
文緒はしょうがない人だなと笑い若利の膝の上でくるりと向きを変える。つまり若利の方を向いた形になった。
「あの、ところで兄様。」
ふと思った事があった。ためらい視線を落としながら文緒は呟く。
「その、こんな薄くて軽くて変わっているような私のどこを気に入ってくださったのですか。」
我ながら唐突な質問だと思ったが聞きたいという気持ちは止められない。一方、若利の顔色は特に変わらないが何となくキョトンとしている雰囲気を感じる。
「唐突に聞かれると少し考える。」
「申し訳ありません。」
「謝る必要はない。」
若利は言ってからそうだなと息を吐きながら言った。
「自分でも不思議な話だが、その変わっている所が気に入った。」
文緒は目を丸くし、力が抜けた為若利の膝からずり落ちそうになった。遠慮せずとも良いものを若利につかまっていなかったのだ。
「落ちるぞ。」
若利はそんな義妹を持ち上げてまた膝に乗せ、話を続ける。
「お前は俺の知らない世界を見ている。まずはそこに惹かれた。それと自分がいた環境とは全く違う所に入ったのに折れずに向かう所に惹かれた。後はお前の笑っている時が気に入った。」
直接的に言われて文緒は顔がたちまちのうちに赤くなる。兄様が私の笑っている時がいいと言ってくれた。夢じゃない、現実だ。物凄く舞い上がりそうになる気持ちを抑えるのに文緒は必死である。
「気がついたら、ずっと俺の側に置いておきたいと思っていた。」
言って若利はそっと文緒を抱き直してきた。