第30章 ・訳がわからない
「今朝家を出る前に様子を見に行った。」
「妹の部屋に入ったのか、しかも寝てるとこ。」
「少し気になったのでな。」
「ほんっとお前相手が文緒で良かったな。あと薄いてのも多分他の女子に言ったら怒られる。」
「そうか。覚えておく。」
眉一つ動かさずに呟く若利に瀬見は溜息をついた。
「お前らは当分フォロー要りそうだな。」
「よろしく頼む。」
「おう、任せろ。」
やがて大平や天童らがやってきて2人の話は一度そこで終わった。
「若利の天然が酷すぎる。」
朝練が終わって丁度若利のいないタイミングで瀬見がぼやく。
「まー若利君だからねー。」
天童が笑いながら反応した。
「でも今更どしたの。」
「溺愛してる癖に妹の事を軽くて薄いて表現する奴があるかっていう。」
天童はもちろん耳に入った山形と川西も吹き出す。
「何それ防寒着かよ。」
「いや冬用のインナーですかね。」
「むしろ布団っぽい。」
天童、川西、山形が順番に言いながら肩を震わせている様は異様だが無理もない。
「そもそも薄いって何なんです。」
阿呆くさいといった雰囲気をまといながらも口を挟んだのは白布だ。
「山形の台詞じゃねーけど実際布団かぶってたらいるかいないのかわかんねーんだと。」
「訳がわかりませんね。」
「てっきり文緒の存在感が薄いのかと思いましたっ。」
「工、お前そのうちあいつに蹴られるぞ。」
「あいつの言い方を借りると寸が足りないと思います、瀬見さん。」
「蹴られるどころかスパイク返されちまえ。」
「ありえないっすっ。てか文緒の腕が折れたらむしろ牛島さんに殺されますっ。」
「文緒の腕が折れるのは困るけどいっぺん若利に怒られちまえ。」
「ひでえっ。」
瀬見にいじり倒されわあわあ言う五色、うるせーと片耳に指を突っ込みながら山形が言う。
「若利の予備軍になりそうな馬鹿がいる。」
「その手の皮肉は奴に通じませんよ。」
「流石太一、確かにその通りだな。」
何となくカオスである。傍観している白布は何なんだこれと呆れ顔だ。