第30章 ・訳がわからない
「そっか。」
瀬見はふと笑って言った。
「とうとうお前も自覚しやがったか。」
「ああ。」
若利は頷いた。朝練前の部室、まだ若利と瀬見しか来ていない。大平あたりがまだ来ていないのが珍しい。ともあれ何の話かというと若利は文緒と自分が兄妹の線を踏み越えていた事を瀬見に話していた。横からさらうなどと穏やかならぬ宣言はされたものの文緒のことでは何かと瀬見に世話になっている。伝えないのは公平でないと判断したのだ。
「文緒は大丈夫なのかよ。かーちゃん達にも外にもわかんないように出来るのか。」
「問題はない。ああ見えてわきまえている。」
「お前がそう言い切るんならそこは大丈夫か。」
瀬見は呟きロッカーの扉を閉める。
「ちっとびっくりだな。」
「何がだ。」
「あんだけ文緒に無関心だったお前がまさか過保護を経て線踏み越えるとこまで行くとはなー。」
「自分でも驚きだ。」
「へぇ。」
「ただ思うことがある。」
何だよと瀬見に促され若利は答えた。
「俺は兄であると意識する事もそこから越えて愛していると感じる事も文緒から学んだ気がする。お前を始め皆の助言があったのは勿論だが。」
瀬見が笑みを浮かべた。
「良かった、つっていいのか。」
「それでいい。」
若利は言う。
「なら文緒に感謝しろよ。あ、そういや聞いたけどさお前あいつに体重いくつって聞いた事あるんだって。」
「あまりに軽かったのでな。」
「お前言っとくけどな、女子に向かって体重の話持ちだしたら普通は怒られるからな。そのまま返事しちまう文緒が普通じゃねぇからな。」
「そういうものか。」
「このやろ、文緒が普通じゃないってわかってて何でそういうトコは気がつかねーんだ。」
「細かく比較する機会がない。」
「答えろって意味じゃねーよっ。」
「事実を言ったまでだが。」
「このど天然。」
ったくよー、とブツブツ言う瀬見に若利は首を傾げて更に余計な事を付け加えた。
「ちなみに薄いというのは問題があるのか。」
「薄いて何だよ。」
「布団に入っているのかいないのかがわからない。」
「まず第一に何で文緒が布団に入ってるのを目撃する状況になんだよ。」
瀬見からすればもう訳がわからない。