第26章 ・困惑と宣言
「お前いい奴じゃん。優しいし一生懸命だし。」
「私は優しくなど。」
「優しくねえ奴が若利の為に何かしようと思ったり山形の忘れもん押しつけられて届けに来たり工の脱線しまくりの話に付き合ったりすんのか。それにこやって逃げずに俺の話も聞いてくれるのか。」
「寧ろ私が聞いてもらってばかりのような。」
「うるせぇ、それ以上言うな。お前いい子過ぎんだよ。」
「ありがとうございます、瀬見さん。しかし、その」
文緒は続きを言う事を一瞬ためらった。しかしここではぐらかすのは流石の天然ボケですら不誠実だとわかっていた。
「申し訳ありません、私はいただいた言葉に応えられません。」
俯き、それでも文緒ははっきりと口にした。体が自然にきゅっと縮こまる。
「おう、知ってた。」
怪訝に思い顔を上げると瀬見は微笑んでいた。
「若利だろ。」
「はい。」
文緒は正直に答えた。
「きっと兄様も許されないでしょう。でも最近わかってしまいました。私は兄様を兄以上に思ってしまっています。それでどうしても兄様以外を考える事が出来なくて。私は悪い妹です、兄妹であるのにそれ以上を求めるなんて。」
「いや無理もなくね、お前らの場合。」
瀬見が言う。
「若利からも聞いてるけどさ親戚つってもほぼ他人レベルの繋がりなんだろ、それが1つ屋根の下じゃなぁ。少なくとも俺なら我慢なんて無理。」
「そうでしょうか。」
「おう。だから泣きそうな顔すんな。」
言う瀬見の腕が伸びてきて気づけば義兄以外に抱きしめられていた。文緒は首を横にブンブンと振る。
「心配すんな、今だけ。若利に殺されかねないしな。」
「瀬見さん。」
「今だけ、な。頼むよ。誰も見てねーし。」
後で瀬見がこっそり天童に語った所によると卑怯にも文緒が断れないのをわかっててそう言ったのだという。実際文緒は断れず昼休みが終わるまでされるがままになっていた。
「ちゃんと返事してくれてサンキュー。」
「申し訳ありません、本当に。」
「いいって。後な、また何かあったらいつでも言えよ。」
「そんな、申し訳がない。」
「またこいつは。口塞いでやろうか。」
「それはご勘弁を。」
「だったらしょうもねえこと言うな、俺がいいっつってんだから。」
「ありがとうございます。」
「それでよし。」