第12章 影山くん。
「ねえ、影山くん。」
私の声に、こちらに視線をよこした影山くんに改めて言う。
「大好きだよ。」
影山くんは、それを聞くとさっきのように私を引き寄せた。
軽く後頭部を支えられる。
「今度は、無理矢理じゃねえからな。」
その言葉のあと、すぐに唇が重なった。
家の近くだから誰かに見られていないかとか、そんなことは思いも及ばなかった。
影山くんが私のそばにいて、私に触れている。
それを思うと本当に幸せで、何もかも忘れてしまいそうだった。
唇が離れると、影山くんはゆっくりと私から離れた。
もっと触れていたかったけど、疲れている彼をこれ以上引き止めるわけには行かない。
「また、明日な。」
「うん、また明日。」
また明日。
この言葉がこんなに嬉しいと感じることに、私は心底驚いていた。
背を向けて暗闇に消えていく彼を見つめながら、もう名残惜しく感じる自分に苦笑する。
完全にその後ろ姿が見えなくなったところで、私も玄関へと足を向けた。