第8章 春への道
私がそう言い返すと、月島くんは少しだけ声を出して笑った。
その笑顔は、嫌味を言う時のものでもなければ、誰かを出しぬいた時のものでもない。
純粋な、至って普通の笑顔だった。
あまりお目にかかれるものでもないので、私はつい彼を見つめてしまう。
「……………」
「……何。」
「あ!いや、なんでもないよ!!」
私がボーッとしていると、月島くんはすぐいつもの表情に戻ってしまった。
ああ、儚い夢だった。
月島くんは、もしかしたら小さい頃はあんな感じで笑っていたのかもしれない。
何の邪気もない先程の笑顔が、妙に心に残った。
普段あまり笑わない人の笑顔には、それだけ破壊力がある。
月島くんのように笑いこそすれど含みのあるものばかりの人なら余計だ。
………月島くん、もっとああいう風に笑えばいいのに。
もっと月島くんのあの笑顔、見たいな。
でも、ひょっとすると、これからそういう機会も増えるのかもしれない。
ここ最近の彼の変化を受けて、私は密かに思う。
どんどん頼もしく変わっていく彼を見て、私も自分にできることを頑張らなければと思い直す。
「月島くん!代表決定戦、頑張ろうね!!」
また気合いを入れて発言してしまったので茶化されるかと思ったけど、そんなことはなかった。
「……うん。」
そう短く答えた彼の瞳は静かな闘志に燃えていて、私はそんな彼からしばらくの間、視線を外すことができなかった。