第8章 春への道
影山くんの視線の先には、全力で走ってきたのか肩で息をする菅原先輩の姿があった。
「間に合ったー……」
息を整えながらそう言った先輩は、私と影山くんの間に入って私達を引き離す。
そして影山くんの腕に手をかけたまま、彼に視線を向けて静かに口を開いた。
「……影山。俺も菜月が好きだから、お前が菜月に触れたい気持ちは嫌ってほど分かるよ。でも…」
月明かりに照らされる先輩の横顔は、とても真剣な表情だった。
先輩はそのまま静かに、でも強い口調で先を続ける。
「俺の前では、させない。お前にばっかりいいとこ持って行かせてたまるか。」
「…………」
強く拳を握りしめたまま、影山くんは口を閉ざしている。
どうしよう、この空気。
二人がにらみ合いを続ける中、私は一人その様子を眺めている状態だった。
菅原先輩はいつもより冷静さを欠いているように見えたし、影山くんは相変わらず何も言わないままだ。
適切な言葉が見つからないまま、でも何か言わなければ。
そう思い、口を開こうとした時だった。