第8章 春への道
西谷先輩とハイタッチを交わすと、今度は田中先輩も掌をこちらに向けていて、何だか流れで全員とハイタッチをすることになった。
試合中もあまりハイタッチに積極的でない月島くんは手を出してくれないかと思っていたけど、全くやる気ありませんから的な感じではあるものの、控えめに手を出してくれた。
だから、こちらも軽く手を合わせる。
「月島くん、ありがとね。月島くんのおかげで楽しく歌えたよ。」
「そう。」
ああ、淡白。
月島くんらしい。
その返事だけ聞いて、こみ上げてくる笑いを抑えながらステージに向き直ろうとすると、隣の月島くんから続けて言葉が発せられた。
「すごく、良かったんじゃない。」
「………!」
音楽にうるさい月島くんに褒めてもらえるなんて。
びっくりして固まり、言葉を返せないでいると月島くんがこちらに視線を向けてきた。
「……何。」
「う、ううん!ありがとね。」
月島くんにお礼を言って、今度こそステージに向き直る。
そのあとは、私と同じようにとても緊張しているであろう出演者の女の子たちの歌をひたすら聴く側に回ったのだった。