第7章 東京遠征
「つうかお前、さっき研磨くんて呼んでなかったか?」
「あ、はい。日向くんが名前で呼んでたから覚えてて…。むしろ名字を知らないです。」
「ふーん…何か勘違いしてるのかもしんねえけど、こいつ2年だからな。」
「ええええ!!!!」
日向くんが呼び捨てにしてタメ語で喋っているから当然1年生なのだと思っていた。
「ご、ごめんなさい他校とはいえ先輩に対して…」
私が頭を下げると研磨くんが口を開く。
「そういうの、いいよ。上下関係とか苦手。だから翔陽にもそう言ったんだ。」
「そ、そっか……。」
もうあれだけ、くん付けで呼んでタメ語で喋った手前、今更敬語で喋るのもおかしな感じがした。
だから、研磨くんの言葉に甘えることにする。
「それよりさ。」
「?」
「名前、聞いてない。」
会ってすぐゲームの話に移行してしまい、自己紹介すらしていなかったことに今の研磨くんの言葉で初めて気付く。
「烏野1年の水沢菜月です。よろしくね。」
「……うん、よろしく菜月。」
黒尾さんは私達二人のやり取りをニヤニヤと楽しそうに眺めていた。
私は、自分が研磨くんを下の名前で呼んだこともあり、研磨くんが自分のこともそうしてくれたのが嬉しかった。
会話が一区切りついたところで、黒尾さんが口を開く。
「おしっ、じゃあさっさと飲みもん買って部屋戻るぞー。菜月、お前も持つの手伝え!」
「ええー!」
何だか流れで黒尾さんにも初めて名前を呼ばれた気がする。
自販機で大量に缶ジュースを買って、音駒の部屋へと向かう。
また新しい人たちと仲良くなれそうな気配がして、私はワクワクするのだった。