第6章 再起
「え……」
どこ、行っちゃったんだろ。
呆然としていると、1分も経たないうちに影山くんは全力疾走で私の目の前に戻ってきた。
そして、何かを私に突き出してくる。
「これやるから…元気出せ。」
影山くんが渡してきたのは私が大好きなチョコレートだった。
今ダッシュで購買に行って買ってきてくれたらしい。
「食えよ。」
影山くんにそう促されたので、お礼を言って頂くことにする。
一口食べたら、大好きな味が口の中いっぱいに広がって余計なことをすべて忘れられた。
「おいしいー…!」
味わいながら噛み締めていると、目の前の影山くんが、どこかホッとしたような表情で私を見つめていた。
「ほんっとに…お前って単純だよな。食いもん渡したら泣き止むってガキかよ。」
「う…。」
影山くんの言葉がグサグサと刺さる。
「でも…まあ。そういうとこも、良い。」
その言葉と、影山くんの優しい表情にドキッとする。
「おい、影山ー!練習はじまんぞ!」
「おう。」
体育館の入口から顔を出した日向くんが影山くんを呼んだ。
影山くんは、それに短く答える。
練習に戻ってしまう前に、私は彼にもう一度お礼を言った。
「影山くん、ありがとう。」
「ああ。」
本当に、ありがとう。
私は、残りのチョコレートが初夏の熱に溶かされないうちにすべて、自分のエネルギーへと変えた。
何だか、いつもの自分に戻れたような気がした。