第5章 IH予選
そのあと、お互いにあまり点数を重ねないうちに青城がタイムアウトを取った。
こんなに早い段階でのタイムアウトに、烏野陣営では変人速攻のサインに向こうが気付いたのではないかという話になる。
だとしたら、やっぱりすごい。
よく見ている。
思えば、この直後から影山くんは精彩を欠き始めた。
向こうがサインに気付いたのかもしれないという焦りから、普段では考えられないようなミスが続いた。
縮まらない点差に焦る気持ちが、コートの外にいる私にですら伝わってくる。
明らかにいつもの影山くんではなかった。
「……菅原っ!」
私の隣りに座って戦況を見守っていた烏養さんが、待機していた菅原先輩の名前を呼んだ。
「頼む。一旦リズム、変えてきてくれ。あいつら焦って固くなってる。ほぐしてやれるのは後から入るお前だけだ。声だしてけよ!」
「…はい!!」
セッター交代。
影山くんから、菅原先輩に。
私は多分、この時の影山くんの表情をずっと忘れないだろう。
自分の番号の交代パドルを掲げた菅原先輩の姿を確認した影山くんは、一瞬、世界の終わりのような表情をしていた。