第5章 IH予選
及川さんの冷たい視線が影山くんを刺す。
二人の間でバチバチと火花が散っているように見えた。
「勝利も菜月ちゃんも、両方この及川さんが奪ってあげよう。」
「なっ…!!」
「お前はセッターとして一番大切なことが分かってない。ついでに、女の子の扱い方もね。そんなやつには絶対負けないよ。」
明らかに動揺した影山くんに、大地さんが声をかける。
「相手にするな影山。動揺したら相手の思う壺だぞ。」
「……すみません。」
影山くんのことが心配で、思わず彼を見つめ続けていたら、及川さんにふいに名前を呼ばれた。
「ねえ、菜月ちゃん。」
「は、はい。」
「烏野の君が、思わずこっちを応援したくなるようなプレーを約束するよ。だからさ、ちゃーんと俺を見ててよね。」
その言葉に、呆気に取られる。
及川さんは影山くんの様子を見て満足したのか、もう一度微笑んでから私達を追い抜かして先を行く。
「楽しみにしてるよ、飛雄ちゃん。」
最後にそう言い残して。
及川さんの挑発は、影山くんに火をつけるには十分だった。
「負けるかよ…絶対に負けねえ!!」
さすが、元先輩。
影山くんのことをよく分かっている。
完全に挑発に乗ってしまった様子の影山くんを見て、私は先程までより更に心配になってしまった。
でも、もう声をかけられるような状態でもない。
試合が始まる前までに、いつもの冷静な影山くんに戻ってくれますように。
そう願いながら、私は影山くんの背中を見つめた。