第5章 IH予選
すぐに次の試合が始まるため、勝利の余韻に浸る間もなく、私達はコートを去らなければならなかった。
準備を整えて体育館を出ようとしたところで、黄色い歓声に思わず足を止める。
「及川先輩〜頑張ってー!」
「かっこいいー!及川さーん!!」
ここはコンサート会場か何かかと思わせるくらいの女子生徒のテンションに、思わず苦笑する。
及川さんは、やっぱりすごい人気だ。
ちょうど、及川さんのサーブのターンだったので見入ってしまう。
その時、急に視界が真っ暗になった。
「えっ…」
「あっち見んな。」
背後から影山くんの声がする。
「…俺のサーブが一番なんだろ。」
「う、うん…」
影山くんが私の背後から目隠ししたらしい。
私が返事をすると、目に光が戻ってきた。
「影山ー!また嫉妬かよ。彼氏でもないのに、良いご身分だな!」
「そうだそうだー!菜月は、別にお前のもんじゃないんだぞ!」
田中先輩と日向くんにそう突っ込まれると、影山くんは即座に言い返す。
「…将来的に!俺のものになる予定なんで!!」
影山くんの台詞に硬直していると、
明日みてろよ、絶対勝ってやる。
それだけ言って影山くんはどんどん先を歩いて行ってしまった。
「な、何だ今の…」
「おい待てよ影山ー!」
影山くんの言葉に驚く田中先輩と、彼を追いかけて走りだす日向くん。
私は、尚も続く黄色い歓声の中で、もう一度だけ及川さんの方へと視線をやってから体育館を出た。