第6章 アヒルの中で
「ここから見る景色もオツなものだね~」
「うん。きれいだね」
「ね♪」
「もうちょっと向こうの方まで行ってみよっか」
「うん。…智くんガンバッ♪」
「…多香子も漕いでよ?」
コレがね、なかなか。案外思うようなスピードが出ないんですよ。手漕ぎの方がむしろ速いような気がする。あの木の棒みたいな…オール?これにも積んどけよ!って(笑)。
でも
「…」
乗ってからずーっとおいらの左手、あったかいの。多香子と手繋いでるから♪手漕ぎは両手ふさがるから、こんなことできないもんね。うんっ。アヒル、大正解!
「フフ」
「どしたの?」
「…ねえ、多香子」
「うん?」
「好き♪」
「…。えっ!ど、どしたの、突然」
「なんかね、言いたくなった。大好き♪」
「…ふふっ。私も!大好き、智くん♪」
「うん…」
黙って、見てた。ただ、多香子のこと。この時間、幸せだな~って。
多香子も俺のこと見てたけど、何か言おうとして、黙った。そんで、ふんわり微笑んだ。
「…」
少し動いたその唇を、ぼんやり見て、そんで、また多香子を見た。
やさしい顔
…うん
俺、多香子、ほんと大好きだな
「多香子」
「うん?」
左向いたまま、ゆっくり上半身乗り出して、そのまま…キスした。ゆらゆらと揺れるボートの上でのキスって、結構難しい…そうでもないか。自分で動かさなくても時々こすれる感じが何かくすぐったい…。